2013年4月8日月曜日

現役通訳者が書評をしたら【3】『西の魔女が死んだ』

『西の魔女が死んだ』(梨木香歩著、新潮文庫)を再読。本著には「渡りの一日」も収録されているが、「西の魔女が死んだ」にほとんどのページが割かれている。両者の主人公は同じ「まい」だ。

「西の魔女が死んだ」---。こんな印象的な一文で始まる物語は、「ハーフ」(またPC的には「ダブル」)の「まい」が主人公。祖母、母、そしてまいがの三代が中心人物として話が進む女系の物語。きれいに整えられた庭をもつ「おばあちゃん」は、バーモントの片田舎で1人で自給自足の生活をしていた園芸家ターシャ・チューダを思い出させる。

まいは中学校が苦痛になり、初夏の辺りのひと月ほどをおばあちゃんと暮らす。このセンシティブさは、メディアに顔を出さない梨木のセンシティブさと重なる。おばあちゃんから魔女の手ほどきを受けたまいは、最終的に西の魔女であるおばあちゃんから東の魔女と認定される、というビルディングスロマン(成長の物語)とも読める。

「とも」読める、と言ったのは、環境批評(エコクリティシズム)的な観点からも読まれているからだ。文章には様々な自然物が登場し、それらの自然が物語を牽引しているようにさえ思えてくるから不思議だ。これも魔女の魔法だろうか。

または異文化の物語とも読める。日本人と英国人(ちなみに梨木は英国に留学していた)の「ハーフ」であるまい、英語で「アイ・ノウ(I know)」、「ナイ・ナイ(Nighty Night;おやすみ)」と語りかけるおばあちゃん。片仮名が多発する本文はまさに異文化のナラティブだ。

複数の視点から読める「西の魔女が死んだ」。読めばあなたもその魔法にかかる。

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